『パームス7月号』に柴田施設長のインタビューが掲載されました。

パームス7月号:Palm's Intervieru

患者さんこそが教師 医療、介護とはLOVEだ

 さだまさしさんの「風に立つライオン」という歌をご存知でしょうか。アフリカ医療に従事した、ある日本人医師を歌った曲。そのモデルが、元県立日南病院院長・柴田紘一郎さんです。医療の現場に40年、いまでも多くの患者や医師に慕われる柴田さんが語る、医者とは?医療のあり方とは?

  「現代の医療に、患者さんはどれだけ満足しているのでしょう。技術の進歩はめざましいのですが、医療に対する満足感、信頼感は少なくなっている気もします。40年余の臨床を経験して、いまさらながら強く思うのは、医療人にとっての教師はやはり患者さんであるということです。
『時に治し、しばしば支え、常に慰む』
 これは約120年前に米国で結核診療所を設立したトルドー先生の墓碑に記されている言葉です。命を預かる(治す)職業に使命(命を使う)感と同時に限界も感じ、懊悩しています。せめて、限りある命の支えとなって、慰めることができたらと必死に願う毎日です。
 わたしのモットーは『常に向学心を持ち、芸の心をもって尽くすこと』ですが、私が推進していることがあります。患者さんとの『LOVE運動』です。
 つまり、LはListen。聴く(傾聴)です。ゆっくり苦情を聴いてあげるだけで患者さんの苦痛がやわらぐことは珍しくありません。共感を持って傾聴することは、治療の第一歩だと確信しています。
 OはOverview、全体的に見るということ。さまざまな相違を超えて、誰しも同じ人間だという思いです。Vはvoice。言葉は言霊(ことだま)ともいい、霊を持っています。ひと言が患者さんを励まし、また、傷つけます。すごい力を持っています。使い方に留意すべきです。Eはexcuse、許すこと。これは人間の基本だと思います。末期の患者さんに、我々の力不足を許してもらえ、さらに感謝されるときには、人間のやさしさ、明日の医療への活気をいただきます。どれだけたくさんの患者さんに感謝して、また力づけられてきたことでしょう。
 私は今春、介護老人保健施設に赴任しました。そこで開かれた車椅子の90歳の女性の誕生会で、20歳のお孫さんがこんなメッセージを寄せてきました。

いつも私達家族の体の心配をしてくれてありがとう。(中略)私達家族に『すまんねぇ、すまんねぇ』と気遣ってくれてありがとう。私達家族をこの世に誕生させてくれてありがとう。

人間の尊厳と、未来に続く命のリレーを感じ、強い感銘を受けました。何年この世界にいても、私はこうしていつも患者さんたちに教えられているように思えてならないのです」

<パームス7月号 掲載>